東日本大震災が起きたあとであり、少し過激なタイトルに感じますが、2005年に出版された本です。

ホテル火災、韓国地下鉄火災、阪神大震災、新潟中越地震、スマトラ地震、雪印食中毒事件などの災害や事件の事例を基に防災心理学という観点から人間の行動を分析した良書です。危機を目の前にして人間が判断を誤る理由が分る本であり、反面教師として役立てるべきだと思います。

人は皆「自分だけは死なない」と思っている -防災オンチの日本人-
人は皆「自分だけは死なない」と思っている -防災オンチの日本人-


多くの災害事例に基づいて人間の行動心理を紹介していて、分り易く読みやすい本でした。災害時の危機管理だけでなく、企業運営でのリスク管理にも役に立つ部分もありました。


"人間はある条件下に置かれると、自分に都合の良い情報だけを受け入れ、都合の悪い情報を自動的にカットしてしまう"  ― 37ページ
 
"地震にしても津波にしても過去の事例だけとらわれていると危険である。常に最悪を考えて行動する必要があると、この災害は教えてくれる"   ― 48ページ


経験則に捉われると、その想定を超えた際に対応できないという事があると思います。

実際に沿岸部の人から聞いた話です。今回の東日本大震災の2日前、3月9日に震度4程度の地震があり小さめの津波が発生しました。この時の経験から3月11日の大地震の際にも「津波は大したことない」と思ったそうです。別の地区の人からは、「第一波が小さかった為に油断した」という話も聞きました。津波を見学に行った人もいたそうです。
自分も同じ立場だったら、そう思ったかもしれないし軽率な行動をとったかもしれないと思いました。過去の事例に捉われずに危険への感受性を高めることが大切なのだと思います。

 "テレビやインターネットなどで災害時の様子を見聞きしていた人は、あたかもそのことについていろいろと知っているつもりになってしまい、実際に災害が起きたときに、臨機応変な対応、創造的判断、その場にあわせて合理的な対応ができなくなる危険性がある。"   ― 43ページ

今回の震災では、まさにテレビやインターネットで津波の瞬間の映像が多く流されました。貴重な資料であり、津波の恐ろしさを伝えるためには必要なことだと思います。ただ、余りにも多くの情報が流れているために津波について知っているつもりになってしまうという落とし穴があるのです。手軽な動画だけではなく、少なくとも言葉や文字で後世に伝えることの方が大事なのだと思います。
本書では目の前で起きていることに対して判断力を養う事の方が大事だと教えてくれます。



また、本書ではパニックは簡単に起こらないとしています。それよりも「怖いのはパニックではなく、パニックを恐れる人たちが引き起こす情報隠しである (― 75ページ)」としています。

この事はズバリ、福島原発での政府や東電の対応を言い当てていると思います。


また、中越地震の際に停電により携帯電話の基地局の非常用バッテリーが尽きてダウンしたことも紹介されていました。

今回の震災、その後の大規模余震による停電でも同じことが置きました。中越地震を教訓に対策がなされていればと思ってしまいました。



スイスでは最低2ヶ月分の物品を備蓄する義務があるそうです。現代日本人はコンビニが生活に密着していて備蓄するという意識が希薄であると指摘されていました。「災害は忘れた頃にやってくる」と言われるように震災後は防災意識が高まりますが、数年後には忘れてしまいます。震災の教訓を風化させない教育や防災心理学の教育を学校で行うことも必要だと思います。

日本は歴史上からも災害大国であることは事実であり、この事を受け入れ、個人はもとより、地域、企業、行政が防災心理学という観点から防災対策を練り直す必要があると感じました。